捨て犬を救済する聴導犬育成マニュアル

■はじめに:

 聴導犬というアシスタンス・ドッグがいます。
 アシスタンス・ドッグ(AD)というのは、「身体障害者の生活での不自由な部分を助ける(アシスタンス)特別に訓練された犬たち」(国際アシスタンス・ドッグ(ADI)協会の規定による)のことです。
 アシスタンス・ドッグには盲導犬、聴導犬、介助犬、てんかんを予知して飼い主にしらせるアラート犬が認められています。
 ローマ時代にさかのぼるその発祥の歴史や米国で1万頭、英国で5000頭といった膨大な活躍頭数を見ても、アシスタンス・ドッグの代表格は盲導犬となるのは事実です。
 聴導犬は、アメリカでは33以上の育成団体があり、全米で4000頭ちかい犬が活躍しています。世界で最も成功している英国には1団体のみからこれまでに数百頭が輩出され、現在年間150頭の訓練犬を育成しています。驚くべきなのは、これらの多くの聴導犬育成団体で、英米を問わず、動物保護団体や日本の動物管理所にちかいドッグウォーデンと呼ばれる施設の捨てられた犬の中から、適性を見て聴導犬として訓練しているのです。日本では、英国式の聴導犬育成の指導を受けた日本聴導犬協会が捨てられた犬を活用した聴導犬育成団体として、各地からの注目を集めています。
 日本における聴導犬育成の現状について簡単にふれてみましょう。現在日本には、5つの団体(埼玉、長野、愛知、鹿児島、神奈川)のほか2~3人(東京、四国など)の個人的な訓練士が聴導犬の育成を行っています。しかし、英国に先駆けて1981年から始められた日本での聴導犬育成頭数はこれまでに、わずか20頭以下でした。それも、開始から20年という年月の中で、犬の短い寿命もあつて、現在実労する頭数は10頭前後といわれています。この10頭前後の貸与頭数のうち、日本聴導犬協会から貸与された頭数3頭が含まれていることになります。
 主人の命令に従つて行動をする盲導犬や介助犬と異なって、音に合つた行動を犬自身が判断して自主的な働きをする聴導犬には、他のアシスタンス・ドッグとは違う気質が求められることになります。聴導犬特有の特質については、本文でご説明しますが、その前に1982年からこれまでに1000頭以上を育成してきた英国聴導犬協会が、その訓練頭数の75%以上を捨てられた犬から選んできた事実からも、日本での「捨てられた犬を活かした聴導犬の育成の可能性」に期待がもてるといえるでしょう。
 当初、日本聴導犬協会を発足するにあたり、訓練頭数的にも、捨てられた犬の活用度にしても最も世界で成功している英国聴導犬協会が、これまでの20年間に作り上げた捨てられた犬の選択方法を活用することでスタートをいたしました。その方法を実践するに従って、1996年から日本聴導犬協会で出会った約3000頭以上の犬たちと、その中から選んだ20頭(不適格犬も含む)の育成状況からも、英国式の査定方法に、日本で繁殖された洋犬や、日本の雑種犬特有の性格を見分ける日本独自の査定方法が必要であることがわかりました。
 これから、ご紹介する日本における動物保護団体または、保健所等から聴導犬に適当な犬を選ぶ「聴導犬としての候補犬をシェルターから選ぶ方法」に関しては、現在ひんぱんに行われている英米での研究家による実績も、ある部分で基礎になっています。これらの先駆者のすばらしい研究実績は、各国で共有できるものも多く存在しますが、文化やその土地土地で求められていた犬の役割や気質の違い(家畜化の相違)や、犬の育成の歴史などを見ても、国ごとに各々独自の研究や調査、実践を積み重ねていく必要性があると、考えます。
 今回の研究報告は、まだまだ中間報告にとどまる感がありますが、今後、捨てられた犬の有効活用を試行する一助となれぱ、幸甚です。(日本聴導犬協会2000年4月)

長野県 委託調査 報告書「捨て犬を救済する聴導犬育成マニュアル」


(日本聴導犬協会2000年4月調べ)
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